権利範囲が広い発明、狭い発明

発明の権利範囲は請求項で決まります。請求項だけで決まるということではないようですが、略請求項に記載された文により権利範囲が決まっているよう です。請求項に文字を記載していくことで、その発明の技術や形、例えば大きさや長さ等特徴が定まっていきます。それら特徴が多ければ多いほど発明は限定的 な物になり、権利範囲の狭い発明となります。

 

技術的特徴である部分が、今までの先願で類似するものがないか、又は今まであったものより進歩性、新規性があればその他の特徴は請求項に入れる必要がないということになります。

例 えば雪を降らせる装置を発明し、装置の大きさは手のひらサイズで、六畳の部屋で雪を降らせる発明、として権利化したものは、技術的特徴である雪を降らせる 技術がまったく同じであっても、体育館全体に雪を降らせる1トントラックサイズの装置の権利はもっていないことになります。六畳限定なのでこれは権利範囲 の狭い発明です。

 

雪を降らせる装置の先願がなく、その技術的特徴だけで権利化できる場合、大きさに関する文を請求項に記載 しなければ、手のひらサイズでもトラックサイズでも、その他どんなサイズで形成しても該技術的特徴さえ有していれば権利範囲内となります。これが権利範囲 の広い発明です。

 

雪を降らせる装置が十分に技術的特徴を有する発明として先願があった場合に、長年小型化は不可能であった が、それを実現した場合は進歩性が認められ、手のひらサイズの雪製造機として発明が権利化すると思います。この手のひらサイズという大きさの限定が権利範 囲を狭めたことになります。

 

このように大きさ等の特徴を加えるということは、請求項に記載する文字数が増えることになりま すから、一般的には請求項に記載した文字数が多いほど権利範囲は狭いと言えますし、そう捉えられることが多いと思います。しかし全てにおいてそう言えるも のでもないようです。例えば形に関して記載する文で、四角柱に形成した部位を三角柱に形成することで、また違った特徴を持ち、どちらも権利化したい場合、 請求項内に、“~の部材を四角柱で形成するか又は三角柱で形成し…”といったように“又は”を用いて記載することで、一つの請求項でどちらも権利化するこ とができます。この場合文字数は増えますが権利範囲は四角柱だけのものより広くなっています。

 

それでも請求項1の文字数を 減らしたいと言うのであれば、従属項(発明の技術的特徴を持つ請求項に、別の特徴を加える請求項。)として請求項2に、“前記○○部材を三角柱で形成した 事を特徴とする請求項1に記載の○○”のように記載し、新たな請求項を設けるかたちとなります。この場合請求項が増えるので、権利化した場合は請求項が一 つの発明に対して特許料が二倍、維持費が二倍ということになります。

 

 

権利範囲が広い発明、狭い発明2

保湿マスクを例に実際の請求項を見てみます。

 

【書類名】     特許請求の範囲

【請求項1】

鼻 や鼻の近傍を覆うことができる鼻マスク体と、両眼や両眼の近傍を覆うことができるアイマスク体とが一体である保湿マスクであって、前記鼻マスク体は、鼻の 立体形状に合うよう立体に形成され、前記保湿マスクは装着時に概ね外周縁部分が肌に触れるように形成し、肌に接触していない内側の空間が鼻マスク体とアイ マスク体とでつながっていることを特徴とする保湿マスク。

【請求項2】

前記保湿マスクのアイマスク体と鼻マスク体とを分離できるよう形成し、それぞれを個別で使用可能にした請求項1に記載の保湿マスク。

 

請求項2として従属項もあります。これは実際に特許査定となった権利化済の特許の請求項です。この場合請求項1が権利化できれば、従属項は審査するまでもなくなります。(必ず権利化されます。)

 

それでは請求項1から見ていきます。

まずこの請求項の文を読んで、どのような物か想像してみて下さい。この文に当てはまり、想像できるもの全てが、この発明の権利範囲内の物となります。

鼻 マスクとアイマスクが一体で、内側の空間がつながっているマスクの周囲が普通に肌と接触する作りであれば、その他どのような形、素材、であっても全て権利 範囲内となる発明です。着用時に顔にフィットさせる方法は請求項に記載していないため、例えば耳かけゴムを具備して着用する等、その他どのような方法で着 用できるように作っても権利範囲内であることになります。

 

文字数も上記のように比較的少なくまとまっています。これは権利範囲が広い発明と言えると思います。

最 初の“鼻や鼻の近傍を覆うことができる鼻マスク体”等の近傍は、後述するぼやかせた部分とも言えます。文字を少なくすることが目的であれば、“鼻を覆う鼻 マスク体”でもよいのですが、他者がその権利範囲を意図的に避ける為、鼻よりも広い範囲を覆った商品が無理やりメリットを謳って現れた場合でも、権利侵害 と言えるよう近傍という言葉を使い、その範囲をぼやかせています。

 

実際に鼻を覆うよう形成する際に、フィット感を向上させ るため考慮した結果、必要な領域が増えることもあるでしょう。この発明を出願する際に、明細書に“眼と鼻以外の顔面は不必要に覆わない”と記載していま す。逆に言えば“必要であれば眼や鼻の近傍を広めに覆うことは不必要に覆っているとは言わない”と言えることを記載しています。この記載により“近傍”と いう請求項内の文は広く捉えることができ、例えばフィット感の向上を目的として必要な領域を確保したマスク体の形成が権利範囲内で可能となります。