審査請求後一度目で特許査定を得ることは略不可能? 可能であった場合その発明は権利化しても価値の低い発明?

前述したように特許を権利化するまでの流れとして、弁理士さん曰く出願後の一度目の査定で権利化できるということは略100%ないのだそうです。(現在は実体験から別の認識があり、後述します。)初回に出願する請求項で、権利範囲をかなり狭く請求した場合は、一度目の審査で特許査定となることもあるようですが、そのような権利は持っていても略使い物にならないようです。

 

特許庁の審査官は検索のプロですから、類似文献を用いて少なくとも一度は拒絶理由通知をだしてくるのが通常と考えていいようです。

発明で、価値の高い発明として特許を取得するには、権利範囲を広く取ることが重要になります。“権利範囲が広い”というのは、その発明の技術的特徴以外のことができるだけ請求項内に記載されていない状態を指すと思います。例えば“該円柱部材の高さが略20センチ”や“滑り止めとして底面にゴム素材を具備し…”など請求項に記載された発明は、限定的な記載となるため権利範囲は非常に狭くなり、発明としての価値は低くなります。

 

その代わりに特許権利化できる確立はかなり上がりますが、権利範囲の狭い発明を権利化しても持っている意味は略ありませんし、特許を維持するには特許料として維持費がかかりますので、権利範囲をかなり狭めてでも特許を権利化する、というのはお勧めできません。

 

上記の例のように、“20センチ”等と長さが請求項に記載されると、20センチ前後以外の円柱部材で形成されたものは権利範囲外となる為、同一の技術的特徴を含む類似発明品が増産されても権利侵害とすることはできなくなります。

同じように滑り止めとして底面にゴム素材を具備した発明を特許権利化しても、技術的特徴であるアイデアだけを真似て、底面に滑り止めを必要としない類似発明品が出回ります。又はゴム素材とは異なる滑り止めを具備した類似発明品が出回ることもあるでしょう。

 

何れの例も権利侵害として訴えることは難しいということになります。

拒絶理由を通知されたのち、手続補正をする際に弁理士さんは特許庁の審査官とギリギリのやり取りをします。請求した権利範囲を狭めることで権利化に導いていきますが、狭めすぎないように、できるだけ権利範囲が広くなるように考慮して補正します。

 

 

審査請求後一度目で特許査定を得ることは略不可能? 可能であった場合その発明は権利化しても価値の低い発明?その2

 前述した特許を権利化するまでの流れとして、権利範囲をかなり狭く請求した場合をのぞき、審査請求後の一度目の査定で特許権利化できるということは略100%ないと記載しましたが、次のような話がありました。

 

特許庁で審査官と面接をした際に、極めて短時間で面接が終了したため審査官の方から、「遠くからきていただいたのに早く終わってしまって、何か質問はありますか?」と気遣っていただきました。私は特にないと伝えると、「では私のほうから。」と特許に関する有益な話を聞かせてくれました。

 

 話した内容によると、担当した審査官は20%くらいの確立で一度目の審査請求で特許査定となることがあると話していました。それは話の流れからみても権利範囲の狭い価値の低い発明に対してということではないですし、審査官全体の平均でみても15%~20%くらいは初回で特許査定とすることがあるということでした。しかしながら審査官は人によっては拒絶の根拠が特になくても一度は拒絶理由通知を打つという方もいるということです。弁理士さんが話していたことはそういったケースのことを指していたのだと思います。

私の経験では出願後直の査定で特許査定になったことは皆無、0%です。

 

 

権利範囲が広い発明、狭い発明

発明の権利範囲は請求項で決まります。請求項だけで決まるということではないようですが、略請求項に記載された文により権利範囲が決まっているようです。請求項に文字を記載していくことで、その発明の技術や形、例えば大きさや長さ等特徴が定まっていきます。それら特徴が多ければ多いほど発明は限定的な物になり、権利範囲の狭い発明となります。

 

技術的特徴である部分が、今までの先願で類似するものがないか、又は今まであったものより進歩性、新規性があればその他の特徴は請求項に入れる必要がないということになります。

例えば雪を降らせる装置を発明し、装置の大きさは手のひらサイズで、六畳の部屋で雪を降らせる発明、として権利化したものは、技術的特徴である雪を降らせる技術がまったく同じであっても、体育館全体に雪を降らせる1トントラックサイズの装置の権利はもっていないことになります。六畳限定なのでこれは権利範囲の狭い発明です。

 

雪を降らせる装置の先願がなく、その技術的特徴だけで権利化できる場合、大きさに関する文を請求項に記載しなければ、手のひらサイズでもトラックサイズでも、その他どんなサイズで形成しても該技術的特徴さえ有していれば権利範囲内となります。これが権利範囲の広い発明です。

 

雪を降らせる装置が十分に技術的特徴を有する発明として先願があった場合に、長年小型化は不可能であったが、それを実現した場合は進歩性が認められ、手のひらサイズの雪製造機として発明が権利化すると思います。この手のひらサイズという大きさの限定が権利範囲を狭めたことになります。

 

このように大きさ等の特徴を加えるということは、請求項に記載する文字数が増えることになりますから、一般的には請求項に記載した文字数が多いほど権利範囲は狭いと言えますし、そう捉えられることが多いと思います。しかし全てにおいてそう言えるものでもないようです。例えば形に関して記載する文で、四角柱に形成した部位を三角柱に形成することで、また違った特徴を持ち、どちらも権利化したい場合、請求項内に、“~の部材を四角柱で形成するか又は三角柱で形成し…”といったように“又は”を用いて記載することで、一つの請求項でどちらも権利化することができます。この場合文字数は増えますが権利範囲は四角柱だけのものより広くなっています。

 

それでも請求項1の文字数を減らしたいと言うのであれば、従属項(発明の技術的特徴を持つ請求項に、別の特徴を加える請求項。)として請求項2に、“前記○○部材を三角柱で形成した事を特徴とする請求項1に記載の○○”のように記載し、新たな請求項を設けるかたちとなります。この場合請求項が増えるので、権利化した場合は請求項が一つの発明に対して特許料が二倍、維持費が二倍ということになります。

 

 

権利範囲が広い発明、狭い発明2

保湿マスクを例に実際の請求項を見てみます。

 

【書類名】     特許請求の範囲

【請求項1】

鼻や鼻の近傍を覆うことができる鼻マスク体と、両眼や両眼の近傍を覆うことができるアイマスク体とが一体である保湿マスクであって、前記鼻マスク体は、鼻の立体形状に合うよう立体に形成され、前記保湿マスクは装着時に概ね外周縁部分が肌に触れるように形成し、肌に接触していない内側の空間が鼻マスク体とアイマスク体とでつながっていることを特徴とする保湿マスク。

【請求項2】

前記保湿マスクのアイマスク体と鼻マスク体とを分離できるよう形成し、それぞれを個別で使用可能にした請求項1に記載の保湿マスク。

 

請求項2として従属項もあります。これは実際に特許査定となった権利化済の特許の請求項です。この場合請求項1が権利化できれば、従属項は審査するまでもなくなります。(必ず権利化されます。)

 

それでは請求項1から見ていきます。

まずこの請求項の文を読んで、どのような物か想像してみて下さい。この文に当てはまり、想像できるもの全てが、この発明の権利範囲内の物となります。

鼻マスクとアイマスクが一体で、内側の空間がつながっているマスクの周囲が普通に肌と接触する作りであれば、その他どのような形、素材、であっても全て権利範囲内となる発明です。着用時に顔にフィットさせる方法は請求項に記載していないため、例えば耳かけゴムを具備して着用する等、その他どのような方法で着用できるように作っても権利範囲内であることになります。

 

文字数も上記のように比較的少なくまとまっています。これは権利範囲が広い発明と言えると思います。

最初の“鼻や鼻の近傍を覆うことができる鼻マスク体”等の近傍は、後述するぼやかせた部分とも言えます。文字を少なくすることが目的であれば、“鼻を覆う鼻マスク体”でもよいのですが、他者がその権利範囲を意図的に避ける為、鼻よりも広い範囲を覆った商品が無理やりメリットを謳って現れた場合でも、権利侵害と言えるよう近傍という言葉を使い、その範囲をぼやかせています。

 

実際に鼻を覆うよう形成する際に、フィット感を向上させるため考慮した結果、必要な領域が増えることもあるでしょう。この発明を出願する際に、明細書に“眼と鼻以外の顔面は不必要に覆わない”と記載しています。逆に言えば“必要であれば眼や鼻の近傍を広めに覆うことは不必要に覆っているとは言わない”と言えることを記載しています。この記載により“近傍”という請求項内の文は広く捉えることができ、例えばフィット感の向上を目的として必要な領域を確保したマスク体の形成が権利範囲内で可能となります。

 

 

請求項以外で発明の権利を主張する

発明の権利範囲は略請求項だけで決まりますが、全てではないと上述しました。とてもお世話になった信頼できる弁理士さんから聞いたことなので間違いないと思います。権利化した後の請求項の文は変わることはありませんが、請求項に記載した発明の部位の形状について、出願書類に詳しく記載しておくことで、それも権利範囲に反映させることができるということです。

 

例えばその発明の特徴として、形状がY字状の部材があったとします。それを請求項に、“Y字状の部材を具備し…”と記載して権利化し、商品を販売していたとします。その後他メーカーがその発明の技術的特徴をそのまま使用し、一つの部材をT字状に形成して販売した場合、権利侵害と言えるかですが、それは出願書類でY字状の部材についての詳細をどの程度細かく記載してあるかによるということです。

 

もしここでY字状について特に記載がなければ権利侵害にならないかもしれません。ところが明細書などで、“請求項に記載のY字状の部材については、Yの上部を水平に近づけ、T字状のように形成した場合も同様又は類似する効果が得られる為、Y字状の上部の角度をある程度調整した物もY字状と言えるものである。”のようにY字状について詳細を記載していた場合は、他メーカーの商品が権利を侵害していると言えるということです。

 

請求項ではっきりと細部まで記載するより、少しぼやかせた記載にしておくことで、権利を侵害された際に有利にしやすくなるようです。ぼやかせた部分の詳細は請求項以外で詳しく記載しておくことが重要です。ぼやかせた請求項で権利化することが難しければ、手続補正で権利範囲が狭くなりすぎないように、少しはっきりするよう補正をしていきます。

 

私が特許を権利化するにあたり、担当してくれた特許庁の審査官の方で、とても丁寧に応対してくれた審査官がいました。

拒絶理由通知を受け取ったのち、その発明の説明をするために面接や電話を受け付けてくれるのですが、その際に特許庁の審査官の方が請求項の補正について、ある程度意見してくれます。審査官の方は審査請求された発明に対し、どのような類似先行文献を引用して拒絶しているかを把握していますから、どの部分をどのように補正すれば権利化してもいいか、という部分も把握しており、そのように誘導してくれることもあります。その際に技術的特徴がはっきりするよう補正して、その他は権利範囲が広くなるように一部ぼやかせておきましょう、という内容を審査官の方が伝えてくれたことがありました。

 

それは正直驚きました。審査官方は大変忙しく、一個人に多く時間を割くことは難しい中での応対ですし、本来審査官方は権利範囲を狭くしたいと考えているものだと思っていたので、そのギャップに驚きました。

審査官の方も人間なので、「何故この発明が拒絶されるのか!」などと食いつかれては親切な気持ちも薄れてしまいます。必ず一度は拒絶するものの、出願された発明を大切に考え、権利化するための糸口を伝えようと考えている審査官も少なくないのかもしれません。大切な時間を自分のために使ってくれているという気持ちで審査官の話に耳を傾けるとよいでしょう。

 

 

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